赤坂「桃の木」

シャキシャキとした音とともに

食べ歩き ,

ただのジャガイモの炒めである。
しかしなぜこんなに艶っぽいのか。
なぜこんなに、味の膨らみがあるのか。
なぜこんなに、心を弾ませ、かつ温かく包んでくれるのか。
同寸に切る技術、ジャガイモの芯ががちょうどシャキッとなるための加熱、わずかな塩と酸の見極め、油とスープを乳化させるタイミングなどが重なって生まれた、逸品である。
「水にさらしたジャガイモは、茹でて中心を四十五度ほどにします。そして油と辣油を入れて炒め、上湯を入れて、塩と少量の酢で味を整えます」。
大したことはしていませんと小林シェフはいうが、これがプロが作るということなのだろう。
ジャガイモの香りとほのかな甘み、油のコク、上湯の上品な滋味、胡椒のように感じる辣油の辛味と香り、塩分、遠くにいる酸味、すべてが丸く一つとなって、優しく舌の上を滑っていく。
ジャガイモを噛む、小気味良い、シャキシャキとした音とともに。