これはいけません。
なかほら牧場の仔牛のカツレツである。
しかも仔牛を「サカエヤ」の新保さんが仕上げて、奥野シェフが渾身の力で揚げたカツである。
もう肉好きなら、今すぐにも齧りつきたいお姿である。
味は優しいのだが、奥底に濃密な滋味があって、噛んでも噛んでも絶えることがない。
13歳の少女が内に秘めたプライドを見た時のような、10歳の少年の体に、静かに宿った熱情に触れたような、スリルがある。
それでいて口からなくなる瞬間に、ふっと微かに甘い乳香が漂うのだからたまりません。
またそれがバターの香りと響き合うのだよ。
ここ最近いただいた肉料理の中では、群を抜いていました。
もう最後は骨を持ち、肉片一つも残すものかとかじりついた。
骨周りの筋をいじいじとしゃぶりつきながら、なくなっていく寂しさに涙が滲みました。