「日本で出している店は、たぶんないし、僕自身ももう作らないかもしれないので、これが最初で最後に食べる機会かもしれません」。
そういって、高山シェフは料理を出してくれた。
さっきから鍋の中のものを練っては、持ち上げ、何回も、何回も状態を確かめながら、苦心して完成し、出してきた料理である。
「そば粉のポレンタ」。
ポレンタの上には、自家製のリコッタチーズ、削ったリンゴとパルミジャーノ、溶かしバターがかけられている。
一口食べた瞬間に、体が弛緩し、心が溶けた。
バターの香ばしさが口を満たし、その中をポレンタがゆっくりと滑っていく。豊潤なバターと質朴なそば粉が出会い、エレガントが生まれていた。
リコッタの柔らかい乳の甘みとりんごの酸味が、その情趣を膨らます。
いろんな要素が組み合わせられているのに、そばがきよりも蕎麦自体の品のいい甘みを強く感じる。
地元で手に入る限られた食材だけで、いかにおいしくできるか、練りに練られてきた料理なのだろう。
ある時は加え、ある時は削ぎ落としながら、完成した民族の智慧は、国を超えて、我々の心を動かす。
「ああ、おいしい」。
そう、何度もつぶやいたことか。

「メゼババ」フリウリ＝ヴェネツィア・ジュリア州の全料理は、別コラムを参照してください