割烹「片折」のコースは、カニ以外の季節では2万円からである。
金沢の割烹では、高額な方だろう。
「金沢は、優れた食材が多くある。でもそれらはほとんど県外に行ってしまう。地のものでも最高のものを使って料理を作って見たかったんです」。そう行って片折さんは目を輝かせた。
魚は、70km離れた港まで通って、その日に上がった一番の魚を仕入れて来る。
某有名な寿司屋と同じ場所である。
「野菜も採れたての土の香りがするものを使いたい。金沢の市場では生産者の顔が見えなかったんです」と、これまた四方へ足を延ばす。
「正直まだお客さんも少なく、苦しいです。でも誰もやっていない高みを目指したい。ダメでもやりきりたいと思います」。そういって、目を輝かせた。
三日間寝かせて、食べる時間に合わせて骨から外したというブリは、カマの部分をお造りにして出してくれた。
昆布醤油ゼリーを乗せ、わさびを少し乗せ、柚子を散らしたツマを巻いて食べる。
クリッ。音が立つかのように痛快に歯が入っていく。
だがその後に歯は、すうっと引き込まれる。
脂はのっているが、いやらしくない。
脂が澄んで締まっている。その態が、どうにも色っぽい。
一方寝かせて三日目だというフグの造りは、雑味が微塵もなく、最初の一口は無味を感じるほど透きとおりながら、噛むほどに旨味が湧き出て来る。
これまた一番のものを仕入れたという焼きガニは、なんとエレガントなのだろう。
まだ海の中にいるかのように清らかで、みずみずしく、透明感のある甘みが、ポタリポタリと舌に落ちていく。
白子焼きも、艶やかながら、実に清い。
いい意味でしつこさや押し出しの強さがなく、精の神秘だけを教えながら、とろりと官能にしなだれる。
どの料理にも自然の気高さがある。
それらは、自然への敬いと感謝を湧き起こす。
割烹「片折」
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