<シリーズ食べる人>やきとん編
京成立石「宇ち多」の土曜は、開店12時である。
ところが10時くらいから客が並んじまって、他の店に迷惑かかるからってんで 11時には開けちまうこともある。
11時15分には、もう満席。
その時並んでいるおじさんが
「店は何時から開店?」と聞くと
店員が 「12時から」 と、きっぱり。
おじさん目を白黒させて、痛快だったなあ。
店に入れば、もう30分も経ってないのに、顔の赤いオジサンだらけ。
写真を撮っていると
「おお。俺、今朝風呂にへえって、ぴしぃーっと7・3に分けてきたんだから、いい男に撮ってよ」と、話しかけてくる。
そのおじさん12時(つまり開店前)には顔を真っ赤にして、千鳥足で出て行く。
「お父さん大丈夫ですかぁ」と聞くと
「おうっ。俺は自転車で来てっから、大丈夫でえ」(意味がわからない)
隣のおじさんが話しかけて来た
「ここは常連ばっかりでねえ。ほうらこのカウンターもよお。みんな知り合いさ」と、うれしそう。
世の中不況だって? へえ~そうかい。
どこの話かい。
まあ飲みねえ、飲みねえ。梅割り飲みねえ。
「宇ち多」には、幸福の連鎖が渦巻いて、世の憂さなんぞ、どこかへ吹き飛んじゃう。
おっとおいらも頼まなくちゃ。
「梅割りに 煮込み」。
いけねえ。久しぶりだったからフワ入れてもらうの、忘れちまったあ。
梅割りずずずっ。煮込みもぐもぐ幸せだい。
「レバ塩若焼き 白タレで」(今は若焼きはやっていない)。
「はいよ。レバ塩若焼き 白タレ!」
「レバ塩若焼き シロタレ!」
三代目が注文通し、応える焼き場の若い衆の声が響いて、店の活気が湧き上がる。
「アブラ塩少な目!」
「スヤキガツ酢、ツルミソ!」
「アブラダレ、シロタレヨクヤキ!」
「ハツナマ、カシラスヤキ!」
威勢のリズムが背中をドドーン押して、食欲あおる。
焼くは、この道60年、日本最高歴経験者のおばさんである(今はいらっしゃらない)。
「アブラね」
「アブラはナマ?」
「いや、素焼き醤油 それにタンナマ酢で」。
「はいよ」。
ちきしょう。うれしいね。
なんだかわかんないけどうれしいね。
新宿に「○○再生酒場」なんてあったけど、
自ら名乗っている野暮なとこでいかないで、ここ来てごらんよ。
生まれ変われんだから。
20年前から来てるけど、くるたびに思うよ。
明日のことなんか忘れちまうね。
ああうまい。