焼き鳥丼は明快だ。

食べ歩き ,

焼き鳥丼は明快だ。

だれが考案したかは知らないが、酒の友の焼き鳥を、あつあつご飯にずらりとのせて、甘辛ダレをちょいと加え、肉汁と歯応えで、ご飯を掻き込まそうっていう算段だ。

明快だけに、焼き鳥の質が味を左右する。ゆえに当然ながら、すぐれた焼き鳥丼は焼き鳥屋にある。時折あの食感と肉汁がご飯にからむ味を思い出し、無性に食べたくなる。

ところが、簡単にどこでも食べられるというわけじゃない。気に入りの焼き鳥屋といえば、夜のみの営業で、焼き鳥を散々食べたあとに焼き鳥丼を頼むもの好きはいないので、親子丼しか置いてない店が多い。意外にも希少な丼なのである。

そんな中、焼き鳥屋の質の高い仕事を見せてくれるのが、老舗格の焼き鳥屋、京橋の「伊勢廣」だ。人気の四本丼は、海苔を散らしたご飯の上に、中心をレアに焼きあげて淡い滋味を生かし、わさびが高く香るささみ、千住ねぎの甘みを鳥肉のうまみでくるんだ、ねぎま、上品な甘みがにじみ出るもも肉に加え、名物のだんごが加わる。

玉子を産まなくなった雌シャモを挽き、麻の実を混ぜ合わせたもので、よく見られるような柔らかいつくねではなく、噛み締める喜びがあって、噛んだ途端に口の中は練り肉の旨味であふれる。もちろんご飯を呼び込む力も十分だ。

この四本丼より、ねぎまを抜いた一時からのサービス品三本丼(千円)もおすすめ。さらには、鉄分豊富なレバーを加えた五本丼(千八百円)も。ぼくの好きな食べ方は、ご飯に山椒をはらりとかけ、鳥肉に七味をかけて一緒に掻き込む。ぜひお試しあれ。

鳥与志の焼き鳥丼も焼き鳥屋の矜持が詰まっている。まず第一の魅力は、串に刺さった鳥肉の大振りなこと。特にレバーは、ほんのりレアのやさしい火入れで、噛み込むとじんわり甘く目が細くなる。もも肉や手羽先は、脂と肉汁とタレがからむ出合いの喜びがあり、胸の軟骨をたたいて混ぜたつくねは、時折コリリと歯に当たるアクセントが楽しい。第二の魅力は、焼き鳥の下、ご飯の上に敷きつめた鳥そぼろ。淡い味付けながら存在感があって、ご飯となんともいい相性。焼き鳥ほおばり、すかさずそぼろご飯と、充足感の高い焼き鳥丼である。

最後は変則アジアの焼き鳥丼。名前は焼鳥飯ながら、揚げた鳥もも肉をのせた丼だ。揚げたての鳥は、クリスピーな皮が香ばしく、バリッ、サクッと痛快な音が響き渡る。そこへナンプラー主体のタレが加わって、スプーン持つ手が早くなる。鶏に厳しい最近だけど、人間のわがまま反省しながら、さあ、一気呵成に食べようじゃないか。