そのレストランは二種類の料理しかない。
タリアッテレとトルテローニ。
Tagliatelle e Tortelloni。
頼めば店主が麺を茹で、オーリーブオイルとパルミジャーノ、黒胡椒であえるだけである。
運ばれてきたタリアッテレを一口食べた瞬間に、目を見開いた。
これは羽衣である。
タリアッテレと名を変えた天女の羽衣が、舌の上で舞う。
華やかではかない存在を、優美に伝えくる。
人間に作られながらも、命が吹き込まれ、自らの意思で軽やかに踊る。
噛む間もないほどに、瞬く間に消えてしまう。
これは幻だったのか。
一口食べ終わって、押し黙った。
おいしいと思う以前に、こんなパスタがあることが衝撃だった。
顔は自然に笑い、無我夢中で麺を巻いては食べる。
気がつけばなくなり、口の中には小麦粉の甘い夢だけが残った。
トルテローニの話は別コラムを参照してください