曙橋のこの店に通って35年経った。
昔も今も、ご夫婦二人でやられている。
「最近は疲れちゃってね」と、ご主人はぼやくが、それでも35年通って初めて出会う味があるのは、ご主人の気骨か、奥様の絶えまぬ美味への探求か。
先日も、「豆腐を蒸しました」と言って出された料理がこれである。
熱々の蒸した豆腐に、油と醤油だれがかけられている。
口に運べば、豆の甘い香りがぷぅ~んと鼻に抜けて、目が細くなる。
脂のコクと、タレの甘みが舌を包み込んで、笑いたくなる。
そして途中まで食べたら、ご飯を入れる。
豆腐もごはんもよくよく混ぜて、豆腐と米の白がすべてタレ色に染まったら、さあ食べよう。
優しい豆腐の甘みとご飯が出合い、そこへタレのうま味が覆いかぶさって、有無を言わさぬ美味がある。
もううれしくて、店内中を駆け巡りたいほどの美味がある。
こうして35年通って、初めて出会うおいしさがあるからこそ、通いたい。