その店には、爽やかな風が抜けていた。
一階だが、片方は、6階建ての高台に建っているため、店の奥からは遠くまで見渡せる。
もうそれだけで心地よいのに、いい酒といい料理が待ち構えている。
指揮を振るのは、愛すべき変態、竹口君である。
驚異的な鼻と舌で、イタリア料理だろうが、中国料理だろうが、フランス料理だろうが、日本酒とのマリアージュをぴたりと着地させる、稀有な才能の持ち主である。
そしてその才能を、新しい店では、日本酒だけでなく日本ワインにも向けた。
この日も変わり金平牛蒡やパテドカンパーニュ、鯖寿司などに、絶妙な酒を合わせてきたが、素晴らしかったのは、菊芋と塩漬けきのこのグリーンカレーである。
グリーンカレーを食べ、日本酒を飲むと、カレーの旨みが深くなって、エレガントさもあらわれる。
うーむと唸ってしまった。
日本酒とワイン、料理それぞれが歌い、重なり合い、舞を踊る。
モノフォニーではない、多重音声の響きが織りなす不思議と複雑が、新しい天体を作る。
四谷「ポリフォニー」。
ここは、人間の創りしものの、その先にある可能性を感じ、喜びに浸る場所である。