36ヶ月熟成のクラッテロが出された。
おそらく日本で出している店は皆無に近いだろう。
樹木のような、蜜のような、獣のような、熟鮓のような、濡れた土のような、白酒のような、そのどれでもない香りが、混沌としながら漂ってくる。
豚でありながら、豚ではない。
ハムでありながら、ハムではない。
この世の不思議をそっと集めた香りが、いやこの世のものとは思えぬ蠱惑が、鼻腔をくすぐり続ける。
もはや肉を超えた別次元であり、そいつを口の中に入れて、噛まずにしばらく置いて、とろとろになった時点で、ゆっくりと潰してやる。
薄い薄い一枚でありながら、複雑な旨みを秘めて、味わいが永遠に続いていく。
余韻だけで、一晩は語れる。
そんなハムであった。
神保町「ALTEGO」にて