噛んだ瞬間、いけないことをしているような感覚があって、少したじろいだ。
コハダが、生きている。
歯がふわりと入り、しなやかな体に包まれていく。
ほのかな酸味や塩気と戯れているような、淡いコハダのうま味が、酢飯と抱き合い、ともにほどけていく。
命の気配を宿しながらどこまでも穏やかな滋味が、心を座らせる。
魚臭さも、小肌の緊張した固さも微塵もない。
あるがままの自然が、胸を打つ。
ここにたどり着くまで、長い時間がかかったという。
顕微鏡で繊維の流れを観察し、生息している場所の海水を飲み、学術書も紐解き、古い仕事を研究し、様々な産地の小肌を、塩も酢〆も、数分から1時間まで様々な時間と量で実験を繰り返して、たどり着いた。
しかし小肌は、そんな苦労を微塵も感じさせず、あくまでさらりと感動を伝える。
「すし通」の小肌。