人の好みは面白い。

食べ歩き ,

人の好みは面白い。
本日鍋大学の前に、日本橋「利休庵」に顔を出した。

★するとすぐに70ほどの男性常連が入ってきて、座るなり「今日は、かつ丼かカレー南蛮か、どっちにしようか、まだ悩んでんだ」という。
「○○さん、すいません、かつ丼終わっちゃったんです」。
「えっ(しばし無言)。かつ丼が終わるなんてえことがあんだねえ。じゃあしょうがない。カレー南蛮だ」。
運ばれたカレー南蛮を汁の一滴も残さず、愛おしそうに、時間をかけて食べ終えた。

★一方その後に現れたのは、42,3歳の男性一人客。座るなり
「冷酒一合とカレー南蛮」。
合わんと思うが、そこは人の好み。
運ばれた、カレー南蛮を肴に冷酒をゆっくり飲む。

★次に現れたのは、70歳の上品なご婦人一人。彼女もなじみのよう。
席に座ろうとすると、サービスの女性が
「すいません。かつ丼終わっちゃったんですよ」。
「えっ(しばし無言)」。
まだ頼んでないのにである。まだなにも言葉を発していないのにである。
いつも来ては「かつ丼」を頼んでいるんだろう。
「親子丼と玉子丼ならできるんですが」。戸惑う彼女にサービスの女性が説明した。
「それでは親子丼をいただきます。親子丼も好きなのよ」と、彼女。
やがて運ばれてきた親子丼を食べ始める。仕草に品がある。
しかし不思議なのは、すまし汁に一切手を付けないこと。ふたも開けない。
やがて丼を食べ終わると、おもむろに椀の蓋をあけ、飲み干した。
丼→椀というのが彼女の流儀なのだろう。
それにしても70のご婦人が、かつ丼好きというのもカッコイイ。

★今度は70過ぎの女性二人連れ。なにを頼んだかは聞こえない。
するとざるそば2枚が運ばれ、めいめいが食べ始めた。
そこまではいい。だがその後に、イカの醤油焼きが運ばれたのである。
小皿ではない。スルメイカいっぱい分の大皿である。
さらには、地鶏の塩焼きも運ばれた。
酒も飲んでいないのにである。
彼女たちは、ざるそばをきれいに食べ終わると、イカと鶏を食べ始めた。
不思議なのは、ざるそば時も、イカと鶏時も、一切口を利かないこと。
どちらかというと仏頂面で食べている。
ざるそば後に、イカと鶏。そして無言。70歳。

いろんな人がいるなあと思いながら僕が食べていたのは、おかめの台抜きを肴に、燗酒である。
そばのない「おかめ」は、どこか寂しげで、その風情が酒を飲むのにちょうどいいのだな。