正宗中国菜の会、第三回 「御膳房」雲南料理

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正宗中国菜の会、第三回のテーマは雲南料理。

といっても馴染みのない人もいよう。

雲南省は、四川省の南、南をベトナムやラオス、ミャンマーと国境を接する地域だ。

高倉健主演で話題となった、「単騎、千里を走る」の舞台「麗江」も一部である。

野菜の宝庫ともいわれ、茸類、山菜類、川魚、雲南ハムが特産品で、素朴ながらも大地の香りと力強さが同居する料理である。

ここ「御膳房」は、中日中国大使館の文化担当だった徐耀華氏が、日本で唯一の雲南料理を提供する店として開いた店である。

 

前菜は、しみじみとしたうまみが滲む、牛スジの煮凝り、鶏肉胡桃巻き、燻香が利いた鴨の燻製、鶏油と辣油による干し豆腐、煮あわび、自然な甘みが出た甘そば粉の揚げ物、かりんとうのように揚げられた、雲南省の小さい人参の盛り合わせ。

 

続いてスープ。

「鰻と湯葉のとろみスープ」である。湯葉の穏やかな甘みが全面にいきわたったスープの中から、鰻の滋味を顔を出す。素朴な大地を感じさせるスープだ。

次に三角形のフライのようなものが出される。

「鮮魚と雲南茸の包み揚げ」とのこと。カリッと揚げられた香ばしい衣が破れると、同寸に切りそろえられた、白身魚と三種の茸が様々な香りと歯応えを響かせる。茸の国、雲南の矜持その一である。

「虎掌茸と雲南ハムの炒め」

虎掌茸は虎の手のような形をした大きな茸である。

参考にと出してくれた干し虎掌茸を少しかじってみたが、アガリスク茸のような香り。

同様に免疫力を高めてくれる効能があるという。

香りの強い雲南ハムと堂々と渡り合う炒め物。

甘酸っぱい甜酢が利いている。

 

五皿目は、「雲南風ダックの燻製」

四川の燻製ダックと似た姿だが、福建省だという鴨は、皮が薄く皮下脂肪が少ない。

やや鉄分を感じさせる肉の味を味わう鴨で、塩山椒のアクセントをつけて食べるとやめられない。

 

六皿目は、「羊肚菌と牛スジのパイ焼」。

いわばパイ包み焼きで、円筒形の器にかぶさったパイが膨れている。

破れば茸の香りが飛び出して、部屋を埋めた。

羊肚菌とは、羊の長に煮ているところからつけられて茸で、いわばあみがさ茸。

特有の香りとしっかりした歯応えが、とろける牛スジと対をなす。胡椒をきっちり利かせた味わい。

 

七皿目は、「山芋の山椒塩炒め」

厚く角切りにした山芋はサクッと音を立てて甘く、その甘さを引き立てるように山椒塩が香ばしくまとわりつかせている。

香港辺りでは、これを巨大シャコを使いにんにくなども利かせるが、山椒と山芋という辺り、山に囲まれた厳しい雲南の大地を感じさせる料理である。

 

八皿目は点心。「辣油かけ餃子」。

花のような華やかな香りを放つ辣油がすばらしい。そのなかで餃子がプリッと弾ける。

 

さて最後は、雲南名物「過橋米線」。まず、ぐらぐらと煮立ったスープの入った器が出され、海老やイカ、豚肉や野菜、茸といった具を入れていく。

具ははただちに半煮え状態。そこへ米の細い麺を入れるといった具合。

その昔、難しい国家試験である「科挙」を受験するために猛勉強をしていた旦那様に、向こう岸に住む奥様が、橋を渡って夜食を差し入れていた。だが、せっかく差し入れても橋を渡るために冷めてしまう。

何とか温かく栄養のある食事をと考え抜いて作ったのがこの麺料理なのであるという。

確かに熱々。

雲南ハムほかの出しの滋味が身体の隅まで沁み込んで、心身ともに暖まる。作った人の愛も沁み込むような麺だ。

茸は希少でも、朴訥さ、地味さを感じさせる雲南料理。食べ終えて感じたのは、大地の温かみである。