おそらく今まで数万軒のレストランを訪れた。
だから初めて会うシェフでも、ああこの人ならおいしいものを作りそうだなあとすぐわかる。
そういうシェフは必ず、野菜にしろ、魚や肉にしろ、生き物を取り扱う責任と、それを生かし、昇華させねばならないという覚悟が、顔からにじみ出ている。
今年1月に開店した、代官山「インクローチョ」の守屋シェフにもそれを感じた。
高温のオーブンで1分焼き、3分間休ませるということを、10数回繰り返して、50分間かけてローストされた子羊は、ブイヨンが表面で輝いている。
焼かれても、肉汁という滋味を失うことなく、その肉塊の中にたっぷりと蓄えて、噛むごとに溢れ出る。
脂は、すうっと口の中で溶け、ほのかに子羊の香りを漂わせる。
優しく、猛々しい命のしずくが、舌を抱きすくめる。
ああ、なんとおいしい子羊のローストだろう。
なんときれいな味わいだろう。
8時間コンフィした鮎も、ジャガイモ穏やかな甘みとエストラゴンの青い香りに抱かれて、ほろほろと舌の上で崩れながら、鮎としての淡い旨味を滴らせ、川に戻って行く。
鮎の肝とドライプルーンジャムとの、甘苦い逢瀬もたまりません。
2kgのアカザエビのガラを使い二日がかりで作ったというスペシャリテ 「アカザエビのトマトソース 手打ちタリアッテレ」は、濃密なエビのうま味が口の中を埋めつくし、笑い、唸らせる。
その他、イカスミ生地で作ったたこ焼きや、食べ放題のジェラート、季節を感じさせる前菜など、楽しみはつきないのだな。