亀戸「メゼババ」

「メゼババ」にて

食べ歩き ,

食べた瞬間に、愛する人のことを思い、食べさせたいと思う。
自分だけが喜び、おいしいと叫ぶのではなく、分かち合いたいと思う。
このジャガイモ料理がそうだった。
ニンニクとローズマリーの香りをまとって、カリッと揚げられた新メークィンは、シェフが修業先のおばあちゃんから教わった料理だという。
郊外にある彼女の店には、わざわざこのジャガイモ料理を食べにくる人で溢れる。
2時間じっくりと低温で揚げられ、最後に高温で仕上げられた芋は、もはやフライではない。
ムースである。
ニンニクとローリエの香りをまとった、なんとも香ばしい表面にカリッと歯を立てれば、歯は、滑らかなジャガイモに吸い込まれていく。
ふんわりと、もったりと。
甘い、甘い、芋のムースに包まれ、懐柔され、癒され、心を許す。
これは温泉でもある。
舌に幸せを呼び、顔を崩すが、なによりも体の細胞がほぐれる味なのである。
「レンツァのジャガイモ」。
高山シェフが料理につけた名前は、そのおばちゃんの名前だった。
「メゼババ」にて。