女将さんが思われる、アンコウの一番おいしい時期はいつですか?」
「卵の大きい今の時期も、12月から2月の太った時期もよろしいございますけど、9月がいいとおもいます」。
「それはどうしてですか?」
「その頃は、アンコウがあっさりとして淡白で、なんとも言えない上品な味わいなんです」。
「では、今度はなんとしても9月に来てみたいのですが」。
「は? 言ってみただけです。クスッ」。
名古屋「得仙」の女将さんは可愛い。口を開けば、毒のある言葉ばかりだが、憎めない。
写真を撮っていると、「撮影料いただきます」と、耳元でこっそり言う。
鍋の汁は、最後の雑炊の為にとっておかなければならないので、絶対飲んではいけない。しかし、鮟肝を溶いた汁を、アンコウと一緒についずるずるとしたくなる。
女将さんに見つかると叱られるので、こっそり飲んで平然としていると、
「飲んだでしょ」。「いや飲んでません」。「いいえ。わかります。クスッ」。
今回は紫だった髪を黒くされていた。そのことを指摘すると、
「はい。ババ色にしました」と、すましている。
そう僕らは、アンコウや伊勢エビではなくて、この女将さんに会いにきているのだ。
女将さんが思われる
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