歯は打ち震えた。
生でもない、加熱されすぎてもいない、不思議なオマールに歯が入った瞬間、噛むという本能の喜びの中に、エロスを見たからだ。
ロティされたオマールの表皮には、甲殻類が焼けた時のほろ苦さが微塵もなく、表皮から中心の一点まで、均一に、穏やかに火が通されていた。
半生で、しっとり温かく、オマール自身が熱情を高ぶらせた、命の張りがある。
甘いが、ただ甘いのではなく、品と艶が滲み出て、舌をコーフンさせる。
甘いエロス。
それは歯にも伝わり、ぐっと力を入れる度に、顔がにやけてしまう。
ああ、このまま堕落してゆきたい。
そんな感情を見ぬくが如く、ヴァンジョーヌソースの酸味が、甘味を引き締め、我々の精神を覚醒させる。
「レカン」 「ブルターニュ産オマールのロースト ヴァンジョーヌソース」