〜三口食べて、人生を見た〜。
麺が輝いている。
パスタにからまった油が光っているのではない。
トマトソースと同化したパスタが、鈍く、じっとりと輝いている。
この自信満々な表情にはなかなか出会えない。
「同じ乾麺なのに、どうして甘く感じるのか」
最初に食べた時に感じた通り、パスタはもっちりとしながら、その表面は微かに溶けて、トマトソースと渾然となりながら一体化している。
よくあるように、パスタがつるんとしていない。
のどごしで食べるような、擬似アルデンテでもない。
ソースとスパゲッティが同じ地平線上で抱き合い、響き合っている。
暖かく、たくましく、揺るぎなく、ただのトマトソースのスパゲッティが、絶望的にうまい。
一口食べて、動けなくなった。
二口食べて、体が痺れ、
三口食べて、人生を見た。
大げさではなく、「生きていてよかった」と、素直に思う。
この皿には、モダンアートをつむぎだす前の、精確なデッサンがある。
独創の前に、料理が育んできた歴史や背景を咀嚼した、堂々たる普遍がある。
そして僕らは、当たり前の凄さを噛みしめる。
経堂「オステリア・カンピドイオ」にて。
麺が輝いている
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