蟹の味噌が白い肉を黄色く染めている。

食べ歩き ,

蟹の味噌が、脚の先まで回って白い肉を黄色く染めている。
蟹の味噌だか蟹の肉だか、もはやわからない身にしがみつく。
蟹の味噌特有の、舌をたぶらかす甘みの中に蟹肉の優しさがある。
蟹肉の淡い甘みの中に、蟹味噌の艶のある誘惑が溶けている。
香りが華やかで、ウニのようなこっくりとした甘みとバターのようなコクがある。
しかしそれは、明確な手応えではなく、微かな気配であるからこそ、人を夢中にさせる。
一見普通の蟹味噌のようでありながら、神秘と色気を漂わす蟹なのである。
「黄油蟹」とは産卵期の蟹が浅瀬にあがってきた時、夏の酷暑と上昇した水温、そして直射日光を浴びることにより味噌と卵が溶け、それが油状に変化して、全身に回った蟹だという。
広東省南部を流れる珠江周辺で繁殖し、特に香港北部の流浮山や後海湾近くで多く捕れるため、香港特産の蟹ともいわれている。