創業90数年となる老舗洋食店の「タマゴサンド」1150円は、清楚な佇まいである。
薄黄色のスクランブルエッグが、緑のパセリを乗せた白いパンに、端正に収まっている。
いや玉子は、一見大人しそうに見えるが、スキあらば、パンからはみ出そうという勢いがある。
それを白いパンが、冷製に押さえ込んでいる。沈着と熱情がからみ合う姿に、ごくりと唾を飲み込む。
口に近づければ、良質なバターの香りが鼻をくすぐって、「ああっ」と、言葉を漏らす。
歯は、温めたパンにふわりと包まれ、その幸せに目を細めていると、玉子が現れる。
歯の圧力で押し出された玉子が、とろとろと舌に広がっていく。
バターのコクと空気を抱いたスクランブルエッグ優しい甘みが、とろんと溶けていく。
その食感は、玉子が割られて固められてしまったことを、まだ知らないのかもしれないと思わせるほど、官能的なのである。
それはシェフが、火加減に気を配り、慎重にかき回して生まれた官能であり、玉子への限りなき愛が、姿になった官能である。
この玉子サンドには、パンと玉子という蜜月を深くし、強固にし、決して裂くことのできない運命とした、人間の思いが込められている。
できれば昼下がりに店を訪れ、ミルクティーを従えて、ゆっくりゆっくりと、時間をかけてほおばりたい。