上に沢庵が乗った小土鍋が運ばれた。
蓋を取ると、醤油の匂いとともに湯気に包まれる。
焦げ茶色の、いかにも熱そうなスープには、うっすらと油が浮かび、青ネギとちくわが散らされている。
鍋の真ん中には生卵が落とされ、スープの熱で白身はかたまりつつある。
そんな具の隙間から、薄黄色の細い麺が顔を覗かせている。
須崎名物の鍋焼きラーメン、「まゆみの店」である。
元々は、戦後すぐに須崎市で開業した「谷口食堂」(今は閉店)が考えたラーメンであるという。
なんでも須崎商工会議所が発足させた「須崎名物『鍋焼きラーメン』プロジェクトX」なるものがあり、そこでは鍋焼きラーメンの定義として、7つを定めているという。
- スープは、親鳥の鶏ガラ醤油ベースであること
- 麺は、細麺ストレートで少し硬めに提供されること
- 具は、親鳥の肉・ねぎ・生卵・ちくわ(すまき)などであること
- 器は、土鍋であること
- スープが沸騰した状態で提供されること
- たくわん(古漬けで酸味のあるものがベスト)が提供されること
- すべてに「おもてなしの心」を込めること
ということである。「なべラーマン」なる、やなせたかしデザインのゆるキャラまでいる力の入れようである。
澳本まゆみさんが長く営む「まゆみの店」は、「谷口食堂」の鍋焼きラーメンをさらに追求した、専門店である。
できますものは、「鍋焼きラーメン」、「塩鍋焼きラーメン」、「カレー鍋焼きラーメン」、「キムチ鍋焼きラーメン」、「先入れ雑炊鍋焼きラーメン」と、いさぎよく鍋焼きラーメンしかない。
ちなみに、食べ終わった後にご飯を入れて雑炊にするのが習わしらしいが、「先入れ雑炊鍋焼きラーメン」とは、最初からご飯が入っているラーメンである。
麺とご飯という炭水化物攻撃を、最初から行うか、後から行うかは高知県人の意見のわかれるところだが、中には、鍋焼きラーメンをおかずにしてご飯を食べ、最後にまたご飯をもらって雑炊にする猛者もいるという。
それでは早速食べてみよう。
熱い。相当に熱い。
ふーふー息をかけながらスープを飲み、麺をゆっくりとすする。
普通のラーメンのようにいきなり麺をすすっては、間違いなく火傷をする。
醤油味のスープは、醤油味も塩もしっかりとあって、うま味が濃い。
優しい甘みも潜んでいる。
シコシコ。
そんなつゆをからめながら細い、コシの強い麺が歯の間で弾む。
麺のシコッ、ネギのシャキシャキ、ちくわのふんわり、親鶏のクリッと異なる食感が、口の中でハーモニーを奏でる。
それが楽しい。
ついでに合間で、発酵して酸味がにじみ出た沢庵を、ボリボリとかじるのも良い。
つゆの濃度が濃いので、卵の黄身をつぶしても、溶けていかない。
鶏油に覆われているので、最後まで熱々である。
この香ばしい鶏油と、甘辛い味わいで、当然ながらご飯が恋しくなる。
そして二、三日経つと、また無性に食べたくなるだろう。
「ごちそうさまです。おいしかったです」。そういうと、店主の澳本まゆみさんは、愛嬌豊かな表情で「ありがとね」と笑われた。
そして「鶏油に鶏のガラたっぷり入れてな、甘みは大量の玉ねぎともにタレをつくるんよ。スープは親鳥からとる。結構手間かかるんよ」
「ここまで手間かけてる店は、もう私のみせくらいやろ」と、胸を張った。
おしかったですよ。まゆみさん。心の体も頭も、ポッカポッカたい!