「12ミリに、決まってるでしょ」。
詳しい方に蒲鉾の切り方をたずねたら、当然のように答えられた。
恥ずかしながら、長い蒲鉾人生で12ミリを意識したことがない。
そこで早速、鈴廣の超特選蒲鉾「古今」で試してみることにした。
メジャーを用意し、印を正確につけ、切っていく。緊張する。
なにか蒲鉾を切るというより、執刀医になった気分である。
古今は全長14,5センチであるから、12枚強切れる計算となる。
そこで、10枚は、12ミリに切り、後は15ミリと10ミリにした。
12ミリを食べる。 僕は貧乏性なので、この一枚が291円になるなあと思いながら食べる。一齧り百円かあと思いながら齧る。
ああ、おいしい。
顎に力を入れると、かすかな抵抗があって歯が蒲鉾に包まれていく。
優しい甘みが広がって、顔が緩む。
そして消えていく刹那、沖ギスと白グチが跳ねる。
魚のほのかな滋味がにじみ出て、喉のあたりで魚が跳ねる。
さすが「古今」である。
では11ミリはどうか。
同様においしいが、歯の包まれ感が足りない。歯は精密機械のように、1ミリの誤差も見逃さない。
もっと包んでと言っている。
ではもっと包んであげましょうと15ミリを行ってみた。
包まれるゾ。包まれる。
だが包まれすぎて、意識が噛み砕く方へ行ってしまう。だから味わう余裕が薄れるのである。
12ミリを発見した人はエライ。
ミリ単位で厚さを変え、試食したのだろう。最終的には11〜13ミリの間で揺れたのだろうな。
12ミリには、その苦心と、味覚の謎が刻まれているのである。