黒しやり

食べ歩き ,

キャビアではない。ご飯である。
シャリ、つまり酢飯である。
生まれてはじめての黒シャリであった。
人間の嗜好というものは、保守的にできている。
白い酢飯に寿司ネタという経験を長年続けてきた人生にて、最初に赤酢の酢飯と出会った時には、うろたえた。
それが今度は「黒」である。
しかしタベアルキストたるもの、保守に走ってはいけない。
既成概念を覆す食べ物であっても、常に虚心坦懐に向き合わなければいけない。
黒シャリっておいしいのかなあ、という疑問を一ミリも挟んではいけない。
そして食べた。
いけるではないか。
黒色は、炭の色である。
2種類の酢をブレンドした酢飯に、炭のエキスを混ぜ込んだので、味に変化はない。
つまり通常の、それも厳選した酢と米による酢飯が黒くなっているだけなのであった。
単に話題作りや、面白さで黒くしたのではない。
海外のセレブたちが、頻繁に摂取しているという炭のエキス(チャコールクレンズ)は、体の中に溜まった重金属他の毒素を排出してくれるのだという。
小さな、おそらく100cc入りの瓶で8000円もする、高価なエキスを惜しげもなく入れているのである。
食べて思った。
軽い。
黒色とは正反対の軽さが酢飯にある。
この軽さは、体に溜まったサビを、流していることを、身体が自覚しているのか。
そして。
食べ終わった後も軽い。
翌朝も軽い。
多分深夜に食べても、翌朝はお腹が空くであろう軽さである。
アルコールの毒素も吸収しちゃったようで、あれだけ飲んだ日本酒も、微塵も残っていなかった(これは気のせいかもね)
とにかく、深夜でも罪悪感がないので、また来ちゃいそうで、怖い(笑)
近い将来、ニューヨークの高級寿司屋で、煌びやかに着飾ったモデルたちが、黒シャリ寿司をつまんでいる光景が見えた。
麻布十番「黒しやり」にて。