奥が見えない。
うま味の底が、遥かに深く、見通せない。
一口すすった瞬間、その豊かさに、鳥肌がたった。
鴨と陳皮のスープである。
時間をかけて焦らずに、穏やかに蒸しながら、鴨の滋味を抽出された湯は、地平線の彼方まで透き通って、一点の汚れもない。
すうっとさりげなく舌を転がったかと思うと、喉に落ち、細胞に染み込んでいく。
体液と同化して、一切の引っかかりなく、五臓六腑に染み渡る
「はぁ〜」。
ため息がひとつ、まろび出た。
素直な体の声である。本能が喜ぶ声である。
二十年寝かされた陳皮の香りは、鴨の濃い滋味に爽やかな風をなびかす。
深淵が覗けぬほどの濃さを、軽やかにするのだが、ほどを知っている。
鴨のことを熟知しながら、静かに静かに、エレガントというそよ風をたなびかせる。
上海 Maさん宅にて。