「鰻と違って脂が少ないから、最後にお茶漬けにしないで下さい。まずいですから」。
女将さんがそういう。
ここは伊勢若松「魚長」。名物穴子まぶしが出された。
よく見れば手前より奥の方がカリッと、深く焼かれている。
薬味は、葱にワサビ、糸海苔。
茶漬けにしろと言っている薬味である。
これで茶漬けにしてはいけないというのである。
「まずい」というのである。
そういわれると、したくなっちゃうもんね。
というところで半分くらい食べたところで、仲居さんに見つからないよう茶漬けにしてみた。
茶をひたひたに入れるのがコツである。
するとうまい。
茶が甘辛いタレ色に染まって、うまい。
カリカリと焼けた穴子の食感が、ざぶざぶと掻き込む茶づけに、リズムを生んで、うまい。
なぜ「まずい」とまでいうのか。
なぜ客が茶漬けをするのを嫌うのか。
分からないまま箸を置いた。
鰻と違って脂が少ないから
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