食べた瞬間、時が止まった

食べ歩き ,

食べた瞬間、時が止まった。
遠くを見つめ、気が付くと、鳥肌が立っていた。
「アマダイとアンチョビのジュ」。
「コートドール」のスペシャリテだ。
甘鯛はみずみずしく、まだ海の中を泳いでるような生命力があって、
口の中で、甘く甘く身が弾ける。
カリリと焼かれた皮は香ばしく、身との間の甘いジュレと一緒になって
歯の間で崩れていく。
優しい魚醤のようなアンチョビのジュは、
練れた塩気でもって、甘い身を色っぽく持ち上げる。
「おいしいなあ、おいしいなあ」何度もつぶやきながら食べ終えた。

コリアンダーとカルダモンが香る、前菜の「さわらの燻製」の精妙な火の通し。
下に敷かれた、胡瓜と人参の細切りマリネの、
つけあわせは自然であるべしという哲学。

ほろほろ鶏の
モモ、胸肉、ささみ、手羽、皮それぞれの、子細な魅力が伝わるロースト加減。

そして最後は、小布施のネクタリンのスフレとソルベ。
食べて笑った。
おいしいという前に、思わず笑った。
ネクタリンの姿と色がどこにも見当たらないスフレは
まさしくネクタリンの純粋そのもので、
ネクタリンの味の芯だけが、濃密に舌の上に広がるのであった。