~静かな美味しさ~。
静かな美味しさほど,強靭で、人間の心を撃つものはない。
高級食材を意識的に使った、「うるさい美味しさ」は、心をかすめて飛んで行くだけで、刻まれることはない。
この一皿は、そのことを教えてくれた。
シュぺッツェレも岩魚も、パースニップも、旨味や香りが強いものではない。
だが、その三者が出会ったこの一皿には、揺るぎない美味が、太い滋味が、滔々と流れていた。
一口食べて、押し黙った。
ああ、なんたることだろうと。
二口食べて唸り、三口食べて笑い、「おいしいね」と、連れと頷きあう。
小麦粉の甘い香りとパースニップの柔らかい甘みが抱き合う中で、加熱され、細かくされたイワナは、生きているかのようなしたたかさを秘めながら、優しい味わいを漂わす。
「もう一度命をいただきました」と囁きながら、口の中を泳いでいく。
そうして、森と川と山に囲まれた、トレンティーノ=アルト・アディジェの、澄んだ空気を運んでくる。
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