青山「ラブランシュ 」

陰陽。明暗。

食べ歩き ,

明るさがあるから、闇が深くなる。
陰があるから、陽に感謝する。
凛々しさがあるから、弱々しさが輝く。
世は、両極があるからこそ、美しい。
田代シェフの料理もまた、濃淡が存在が、主役の滋味を浮き彫りにして、美麗にする。
 
例えば「黒むつ 筍ソース」である。
黒むつの下には、筍を使った淡い味のソースが敷かれていた。
筍のつたない甘さが、黒ムツのたくましさを優しく見せる。
黒ムツの上に乗ったものは、タプナードだという。
食べると干し貝柱やXO醤のような、うま味の濃さがあった。
小魚をカリカリになるまで炒めたものを入れたのだという。
「イメージは、小さい頃よく食べた、福島のニシン味噌です」。
タプナードの濃密なうま味と筍の淡い味は互いを引き立て、黒ムツのたくましさを持ち上げるのだった。
 
ロゼールのジゴにもまた濃淡がある。
優しい甘みをにじませるグリンピースのピュレと、うま味が深い赤ワインソースが合わされている。
子羊に赤ワインソースは、共鳴しながら高みに登っていく、フランス料理らしいコーフンがある。
そこに豆の甘みが加わる。
ピュレは、草原で子羊が草をはんでいる姿を想起させ、赤ワインソースは煌々と燃える炎から生まれた、肉の強さを増幅させる。
剛と柔。
両極が生物の持つ複雑さに明かりを照らし、ピュレとソースが混じり合うことによって、第三のうま味が現れるのだった。
 
デザートの「ブランマンジェとキャラメルのアイス」にもまた、濃淡がある。
おそらく世界中で一番苦いキャラメルアイスと、固めるギリギリで成り立つブランマンジェの脆さが、体を成す。
互いが互いを引き立て合いながら、最後は一つとなって、新たな味を生み出すのであった。