2014年は、東京に最もステーキ店ができた年である。
今年に入っても、そんなステーキブームは衰え知らずで、新店が多くできている。
銀座にも多くの店ができた。
「銀座でステーキを食べる」。
それは今まで、金持ちか交際費がふんだんに使える人しか、考えなかった行為である。
なにしろ銀座でステーキを食べるとなれば、一人4万円以上は覚悟しなくてはならなかったのだから。
「かわむら」、「哥利歐(ごりお)」、「ドンナチュール」、「ゆたか」という名店では、やはり相当の出費を覚悟しなくてはならない。
しかし銀座にも庶民の救世主が現れた。
といっても一世を風靡した「いきなりステーキ」の話ではない。
今年5月に開店した「エルビステッカーロ・ディ・マニャッチョーニ」である。長い店名は「食いしん坊達のお腹を満たすステーキ職人」。
なんと痛快な名前だろう。
長くローマ料理を修業したオーナーシェフの山崎夏紀さんは、肉が好きでイタリアでも一人一キロほど食べていたが、東京では一キロも食べるとなると高額になる。
だからといって、手頃な値段で食べようかと思うと、小さなものしか食べられない。
そこで自分で店を作ったのである。
オススメは、「Tボーンステーキ1キロ」8000円。
高温と低温の二つのオーブンを使用し、高温で表面を焼き上げてから、低温で肉汁を休ませながら時間をかけて焼いていく。
焼き上がりの姿は、実に美しい。
表面は1㎜以下で香ばしいこげ茶の焼き色がつけられ、中は一面ロゼ色に輝いている。
うっすらと滲んだ肉汁が、早く食べろと、誘いかける。
すかさず食べれば、歯がグイッと肉にめり込み、肉汁が溢れ出る。
しかしまだ序の口。
噛んで噛んで、牛のエキスを、余すことなく口の中に満たせ。
強い塩が、肉の滋味を持ち上げ、噛むことによるコーフンが、鼻息を荒くし、体を上気させる。USビーフながら、味が濃く、噛む喜びがあって、「肉を食らっているぞ!」と叫びたくなるようなあじわいである。
それも山崎シェフの、焼き職人としての技とセンスがなした味なのである。
ステーキだけではなく、「これだけでお腹いっぱいになってしまう」と思わせる、見事な前菜盛り合わせ。
本格的なローマ料理のレシピを再現した「カルボナーラ」。
ローマ下町の味、ミントの香りが効いた「トリッパのトラステヴェレ風煮込み」。シナモン、クローブ、セロリ、黒胡椒、松の実、甘くないチョコレートを使った、甘い香りのソースと肉のコラーゲンの甘みが抱き合う「オックステールの煮込み」ほか、逸品も揃う。ぜひ大勢で出かけ、肉に挑んでもらいたい。