琥珀に出かけて、やれ40年前のホワイトホースだ、ゴードンだを飲んで、
「ナンでいまの酒はまずくなっちゃったのかねぇ」と嘆くマスターに相槌をうっていたら、40年前のノイリープラットやら50年前のチンザノが出てきた。
「これでマティーニ作るのは今度来たときね」と、おあづけ
寂しそうな顔をしていると
「オー・ド・ヴィー・プルーヌ知ってる?」ときた。
「ポワールウィリアムスやキルシュみたいなフルーツブランデーでしょ」
「うん。それのね、野生で作るやつがあってプルンヌっていうんだけど、そいつがすごい」
「フランス?」
「いいやコソボ」
「コソボ!」
「各家庭で作るらしいんだけど、戦時中は途絶えたらしく、最近復活したらしい」
「輸入しているんですか」?
「いや、してない。パリ在住のコレクターから譲ってもらった。これが詰め替えたやつ」
「あのー。」
「しょうがない。自慢したからには飲んでもらうしかない」。
透明な液体はとろとろとろりと流れ込み、甘く穏やかな香りが広がった。。
野生の慈愛と生命力が迫って、
「うーん」といったまま頭を抱えた。
時間がゆるやかに弛緩していく。
「飲み終えたら残った液でリンスして。ジン入れるから」と、フツウのゴードンを注いだ。
「ああぅ。おう」
言葉にならない。先ほどまでつんつんしていたジンが、優しく、淫靡になった。
撥水加工した傘に当たった雨のように、丸い、丸い分子のクラスターになって、舌の上をぬめりと滑り、脳を溶かしにかかる(もう半分溶けてはいますが)。
「どうです。凄いでしょこれ、分子構造を変えちゃうんですよきっと。酒の味の素ですね」。
世界は深い。
酒の味の素
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