~西明石「ピコ」の夜~
新ちゃんのお母さんが炊いたという、「鱧の子」は、穏やかなうま味が舌を包んで、しみじみとうまい。
命のつたなさとたくましさが味にあって、心が緩む。
あらゆる魚の卵の中で、最も気高く、優しいのではないか。
鱧の肝串は、レバーやら胃袋やらが刺され、タレ焼きにされている。
クニュッ、シコッと噛み締めれば、鰻や穴子に似た味わいだが、それより品があるんだな。
脂がのったがしらの煮つけで、顔を緩め、箸で持っても崩れず、醤油に溶こうとしても溶けないハギの肝は酒を呼び、べらの南蛮漬けは、ほろりと甘い身が崩れる。
鯖の脂はさらりと舌を過ぎ行き、鯛は噛み締めるほどにうま味が出る。
穴きゅうは、穴子にしたたかなうま味があって、茹で立てのタコに歯を入れれば、栗のような甘い香りが抜けて、笑顔を呼ぶ。
鱧の天ぷらは、滋味をたっぷりはらんで、顔をのけぞらせ、長時間弱火で炊いたという鯛は、白濁した汁に鯛の甘いコラーゲンが溶け込んで、ああここにご飯をぶち込みたい。
西明石「ピコ」の夜。
~西明石「ピコ」の夜~
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