福井の宝である。
中央卸市場の場外にある食堂街「鮮市場」には、8軒ほどの食堂が並んでいる。
早朝から市場で働く人たちの胃袋を受け止める食堂である。
しかし多くが、店主の老齢化のため店じまいしてしまった。
その中で二軒、半世紀ほど営んでいる店がある。
この二軒は、他の店とは違い、観光客目当ての海鮮料理は置いていない。
実質的に胃袋を満たす、炭水化物中心である
一つが「たにや食堂」という。
店主は75歳で、おかみさんもほぼ同年齢、ずらりと並んだ料理は、仲買人に美味しいものをたらふく食べてもらおうという心意気に満ちている。
朝3時半に開店するこの店のオススメは「はいからうどん」である。
どこがはいからなのかはわからぬが、牛すじの煮込みを乗せたうどんをそう呼んでいる。
1日煮込んだという牛すじは、とろとろでコラーゲンと脂の甘みが広げていく。
その煮汁がうどんつゆにとけこんで、またうまい。
しっこりとしたうどんと相まって、朝の体に精力を満たしていくのだった。
もう一軒は「あらや」である。
ワンオペで、厨房で孤軍奮闘する荒川とよこさんは、70歳だという。
名物は「牛すじ丼」である。
70歳には見えぬ肌艶に「毎日牛すじのコラーゲンを食べているせいでしょうか」と聞くと
「私は食べません」と、笑われた。
「牛すじ丼」には、たっぷりのネギと白菜漬け、具沢山の味噌汁が添えられて、これも心意気が伝わってくる。
牛すじは、たにや食堂より大ぶりに切られ、ご飯を呼ぶ。
たまごの黄身を落とし、混ぜて混ぜて掻きこむ。
甘辛い味に七味をかけて少し引き締め、あとは脇目も振らずに、一気呵成で食べ終えた。