真に強いものは、「私は強い」とは主張しない。
その真理を、この料理は証明していた。
京都「チェンチ」坂本シェフによる、吉田牧場ブランスイス牛の料理である。
料理名は「聖護院大根 堀川根牛蒡 頭芋 挽き肉」と書かれている。
カンボジア胡椒をアクセントにした、ひき肉と昆布出汁と根菜による炊き合わせだろうか。
一口スープを飲めば、牛の丸く、優しい香りと滋味が顔を出す。
その香りが、その滋味が、根菜をそっと抱きしめるである。
ブランスイス牛の滋味は、和牛に比べると、決して濃くはない。
だがそこには、包容力のある、真のたくましさが横たわっていた。
その瞬間我々は知るのである。
本当に強いものは、強いぞとは主張しない。
常に相手に対しての敬意があることを。
すべてを受け止め、認めながら、一体となることを。
そこにはブランスイス牛の穏やかなうま味を尊重して、うまくしすぎないようにと、心を繊細にして料理を作った、坂本シェフの愛が静かに満ちていた。