穴子料理といえば、まず日本人の頭に浮かぶのは、煮ツメをを引いた、煮穴子の握りだろう。
あの絶対的おいしさおいしさを知っている日本人は、洋食などで出された場合に、どうしても比較してしまう。
穴子という食材は、洋や中国の料理人にとっては不利かもしれない。
だがここはイタリア料理店である。
しかも煮穴子といって出された。
穴子をフォークで切って口に入れた。
その瞬間に穴子は、舌にふわりと着地して、てれんと消えた。
繊維などなきかのごとく、羽毛布団の柔らかで歯を包み込む。
口から消えると、穴子の甘みが、口いっぱいに余韻として残っている。
最上級の江戸前穴子握りと匹敵するほどの食感と香りといっていい。
対馬の上質な穴子ということもあろう。
この店の常連に超一流の寿司屋の店主がいて、その方から教えを請うたこともあろう。
だがその上に、岡村シェフの研鑽と感性が生んだものなのだろう。
陶然という言葉が脳みそを埋める、傑作穴子料理である。
麻布十番「ピアットミツ」にて
東京最高23