焼肉屋に銘柄牛のうたい文句はいらない。
高級ワインも要らなければトリュフも海鮮もいらない。
サシの入った高級和牛も要らない。
いるのは、丁寧に筋や脂を切り取り、焼きやすいように包丁を入れられた肉である。
いるのは、それぞれの内臓の最も美味しい部分を、的確かつ綺麗に、かつ焼きやすいように整え、それぞれの内臓にあった味付けをして出してくれることである。
だから常に客目線でなければならない。
そのことを樋口さんはよくよく心得ている。
付き合いは30数年になるが、いつもお客さんのことを考え、想像し、変化、深化し続けている。
肉を焼くのが下手なお客さんも、うまいお客さんも受け入れ、毎日丹念に、適切な仕事をなさっている。
だからこの店ばかりに行ってしまうのである。
渋谷「ゆうじ」にて。