君は毒舌家だった。
人の行動や性格
事件や政治にいたるまで
一刀両断、一言で言い切る。
特有のだみ声で
べらんめえ口調だから
なおさら悪づいているように聞こえる。
でもその一言は、いつも真理をついていて
聞くものの心をギクリとさせるのだった。
一見ガラが悪く(失礼!)
悪態つきなので、
粗野な人に見られがちだったが
その実は
繊細で
やさしく
明晰な頭脳で
他人のことを静かに見つめていた。
だから、人の才を見抜き
可能性をいち早く見出すことも得意だった。
君は人一倍優しかったのだ。
他人と素直に、敬意を持って向き合い
まっとうに見つめようとする、真摯な心がいつもあった。
ボクは、あなたのような人を知らない。
ボクは、あなたのような友人を知らない。
これから僕らは、
誰に悪態をつかれ
誰にほめられたらいいのか。
君はまた才の人だった。
君が、あるカヴァ輸入業者のためにディナーを仕立ててくれた夜のことは忘れられない。
モダンと伝統が入り混じった、今のスペイン料理の凄みを、
なんなく作り上げた君の才を思い知らされた。
「ごめん。見くびっていました。恐れ入りました」。
と、失礼なコトを言ったけ
世間ではそう思われていなかったけど、
日本スペイン料理人の五本の指に入る才だった。
カジュアルな店なので、定番が中心で
最新を取り入れたり、進化させたりといったことは
しなかったけど、
毎年スペインに行くようになった君は
きっとその先を
スペイン料理の未来を夢見ていたはずだ。
スペイン料理の未来に加担したかったはずだ。
「俺はまだまだやることがあるから、くたばるわけにはいかねえ」。
といっていたそうだね。
無念。だろうね。
なぜそのことを聞き出してあげられなかったのか。
実現に力を貸してあげられなかったのか。
いまさらだけど、いまさらだけど、悔やみきれない。
行きつけのバーでシガーをふかしながら、よく話したね。
聞く機会はいっぱいあったけど、
いつもボクのことばかりで
君の事は聞けずじまいだった。
最後に話したのは、電話で、お盆の頃だったね。
夏のバーベーキューで構想していた「松茸のパエリャ」
のことでアイデアをもらいたくて。
君は、作ったこともない松茸のパエリャのレシピを
こともなく、すらすらと素晴らしいアイデアを込めて伝えてくれた。
あれは本当に感心した。
あらためてすごい料理人だと思わされたよ。
結局パエリャは作らず、君に報告もしなかったけど、
あの後しばらくして倒れたそうだね。
信じられないよ。
ボクと同い年で旅立つなんて。
悔しい。
残念。
寂しい。
いくら言葉を重ねても、開いた穴は埋まらない。
「ぐだぐだといつまでもいってんじゃねえよ。女の腐ったみてえによぉ」
と、君に言われてしまうね。
君の毒舌。
君のほめ言葉。
君の慧眼。
君の愛した店。
君の料理。
いつまでも、大切に大切にさせてもらいます。
今度の週末には、松茸のパエリャ作るからね。
さようなら。
ありがとう。
また会う日まで。
光昭。