「すいません、注文したのはハンバーグで、オムレツじゃないんですけど」
目の前に現れた皿を見て、思わず文句をいいそうになった。
なぜなら皿の上には、キャベツのせん切りに寄りかかりながら、どろりとした赤茶色のソースをまとった紡錘形の玉子焼きが、どっしりと一つ座っているだけなのだ。
どう見てもオムレツである。
しかしもう一度メニューを見返しても、オムレツなる品書きはない。
頭をひねりながらナイフを入れると、黄色いオムレツがとろりと割れて、中から焦げ茶色のハンバーグが現れた。
これが下町の風情漂う須田町にあるとんカツ屋、「万平」のハンバーグである。豚のヒレとロースのひき肉、玉ねぎ、パン粉などを合わせて練ったものをカリッとソテーした後、オムライスのように玉子でくるりと包んであるのだ。
一見異様に感じる姿だが、よく考えれば、同じ玉子料理の目玉焼きはハンバーグの好伴侶である。
ならば、こいつも旨いに違いない、と口に運んだ途端、思わずうれしさがこみ上げてきた。
まずは内側が半熟になった玉子焼きと柔らかいハンバーグが合わさった、優しい食感に笑みがこぼれ、次に豚肉ならではの甘みが口いっぱいに広がり、それが玉子の甘みと混じって、2度目の笑みがこぼれる。
照り焼き風ソースにケチャップを合わせた甘いソースも、このハンバーグと相性よく、玉子、ハンバーグ、ソースが入り交じると、食べる勢いが加速する。
オムレツ姿といい、独特のソースといい、豚肉のハンバーグならではの好伴侶を見つけるなんぞ、さすがとんカツ屋のご主人だ。
閉店