「いなり寿司」が、いつのまにか大変なことになっている。
長らく庶民の食べ物として、親しまれてきたが、高級化しているのである。
先日も西武デパートで期間限定で発売された福岡の「&LOCALS」のいなり寿司を食べた。
赤い風呂敷風包み紙をほどくと、可愛らしいいなり寿司が並んでいる。
「ヘルシーで贅沢な当店のおいなり鮓」とあり、「添田町木耳柚子胡椒いなり」、「島原ジンジャー胡麻おいなり」、「英彦山りんご蜂蜜おいなり」、など、色とりどりのパステルカラーの紙袋に包まれたいなり寿司であった。
こんなにオシャレになったいなり寿司は、どこか気恥ずかしいが、それぞれに味の変化があって、実に楽しい。
それよりも、いなり寿司と色気というものは無縁と思っていたのだが、そうでもないらしいということに気づくのである。
夜営業のみという、いなり寿司界では珍しい営業形態の、銀座「なみ木」やテイクアウト専門の六本木「呼きつね」東銀座「白金や」のいなり寿司も、可愛らしく、色気もある。
一方色気はいらないが、粋が欲しいと思う方には、浅草の老舗寿司屋のいなり寿司(予約制)はいかがだろう。イカのゲソや干瓢、酢バスなどが入ったいなり寿司は、揚げが出汁で煮含められていて、ほっこりとした気分になる。
だが江戸っ子は、やはり東京らしいいなりが食べたい・
そう思うと、三ノ輪の「富田屋」に足が向く。
それは、真っ黒に近い焦げ茶色で、つやつやと輝いて、我等を誘う。
その漆黒に輝くお姿は、いなり寿司界のカヌレと呼ばれているらしい。
創業来煮汁を継ぎ足して煮詰まった甘じょっぱい江戸伝統の味だが、見た目ほどは味は濃くない。
意外とあっさりしているのは、中の酢飯の甘さを控えて、バランスを取っているせいかと思う。
食べると、ナッツ香やバニラ香、ラム酒香などが立ち上がり、虜となっていく。
そして他のいなり寿司同様、食べ始めると止まらなくなる。実に困った食べ物です。
さて次回は京都のいなり寿司事情を考察したいと思います。長らく