世の不況は続けども、新規開店が相次ぐイタリア料理店の隆盛は止まらない。
隆盛の波は、港区、渋谷区、中央区といった過密地帯を覆いつくし、ロックと沖縄民謡渦巻く庶民
の町、高円寺にも押し寄せていた。
しかも駅から徒歩10分の、周りに飲食店も見当たらぬ住宅街。
あまりにも寂しい立地条件に、不安顔して扉を開ければ、美味しい賑わいが流れ出た。
近隣の人たちなのだろう。買い物のついでにちょっと寄りましたという格好で、楽しそうにパスタ
をほおばっている。
メニューを開けば、うれしや高円寺価格。サラダ、パスタ、コーヒーつきのランチ”が800円、
これに主菜の肉料理とデザートがついたランチコース”が1300円、デザートの追加が200円と、
こりゃあ、買い物ついでにふらりと立ち寄れるわけである。
その日のパスタは、“ボンゴレ・ビアンコ” “ツナとマッシュルームのトマトソース”“ベーコンとズッキーニのリゾット”の3種類。
ボンゴレ” を選んで頼むと、厨 房で孤軍奮闘するご主人が作りはじめた。
やがて現れたスパゲッティは、120グラムの堂々たるヴォリュームで、こんもりと盛られている。ゆ
で具合と塩は絶妙、にんにく、唐辛子がきっちりときいた、メリハ
リのある味わいだ。
そんな中、甘い汁で身をふくらませた、あさりの滋味のやさしいこと。
ここはひとつ、音を立てるタブーなぞ忘れて、ズルズルッと勢いよく食べよう。
イタリア料理だからと構えることなく、ラーメン屋のように気軽につき合おう。
そして食べ終え、つくづく思うのは、こんな店が家の近くにあったらなあ。
オステリアデフィリオ
閉店