土瓶蒸しの蓋を開けると、半分に切った小さな松茸が一つ入っていた。
こちらで土瓶蒸しをいただくのは3回目だが、以前とは様子が違う。
ご主人は言われた。
「普通土瓶蒸しは、出汁に松茸や魚を入れて炊きますが、そうするとせっかくの松茸からエキスが出て、出汁の方に行ってしまう。またこれからたくさん松茸を食べていただくのに、松茸は多くいらないと思い、やり方を変えました」
そして大きな鉢に入れた刻んだ松茸を持ってきた。
「僕らはいい松茸だけ買うことはしません。それでは採る方が困るからです。形が悪いもの成熟が足りないもの、成熟しすぎたものも買います。そしてそれをきざみ、1.5キロ分を入れて出汁を取りました。中に入っている松茸はその松茸出汁の中でさっと加熱したものです」
まず、汁だけ飲む。
ああなんたることだろう。
むせ返るようなうまみが充満している。
これは松茸のコンソメである。
牛肉のも負けない、滋味の深さがある。
鼈甲色に染まった液体から、濃密なエキスが津波のように押し寄せる。
中に入った松茸は、濡れていた。
汁に浸かって濡れているのだが、それ以前に、自らの水分で濡れているのだった。
噛めば、グキグキという音がして、歯の間で弾け、香りと甘みを放出する。
「汁は全部飲まないで、猪口に入れ、冷めるまで放置しておいてください」。
そうご主人が言う。
指示通りにして、そのあとの料理を三皿ほど食べた後で飲んでみた。
あふっ。
思わず嗚咽が漏れ、喉が鳴った。
ぬるくなった汁は、さらにうまみを膨らませて、、舌と喉を濡らす。
熱々ではわからなかったうまみが、味蕾を埋めつくす。
恐ろしい。
あまりにも濃すぎて、舐めるように少しずつしか飲めない。
「香り松茸、味しめじ(本シメジ)」などと言うが、それは真実を知らぬものの言葉でないだろうか。
こんなにも深いうまみを持ったキノコが他にあるのだろうか。
そう思いながら、目が眩むようなうまみに、ただただ頭を垂れるしかなかった。
飯田「柚木元」にて。
写真6枚目は2022年 7枚目は2023年の土瓶蒸しの写真です