それは静かに入ってきた。
一口飲んで「うまい」とは言わない。
一口、二口、三口めに、滋味が染み渡る。
貝柱の淡い出汁に、野菜類の養分が溶け込んで、舌をそっと抱きしめる。
味が、どこまでも丸い。
丸い味は、舌から喉へと滑り落ち、体の全細胞へと、染み渡っていく。
「はあ〜」。体の力が抜ける。
顔が穏やかになる。
色々と「のっぺい」を食べてきたが、こんなに朴訥で温かく、品を持つ汁には出会ったことがない。
そのことを伝えると、女将さんは言われた。
「ありがとうございます。のっぺいは、家々で違います。これが我が家ののっぺいです」。
優しい口調で言い切るその目には、伝統を受け継ぐものとしての、覚悟が燃えていた。
時に思う。
こういう料理をインスタやFBにあげて、いいねがたくさんつく時がくることを。
南魚沼「欅苑」にて。
本膳の料理は別コラムを参照してください