「料理アカデミーの先生が来られて、鯖節の骨はアゴよりいいダシが出ることが分かった。だから粉砕して肥料に使わず、分けてくれないかと頼まれたんです」。
明治40年より鯖本枯節を作り続ける老舗、「馬場水産」を受け継ぐ馬場一朗さんは、はにかむようにしてそのことを話した。
陣内孝則を柔らかくしたような顔立ちである。いや若いころのCHARか。
「でも、海のものは山に返すと決めているので、断っちゃいました」と、笑う。
屋久島の超軟水の伏流水と、屋久島の広葉樹を使って作る馬場水産の鯖節は、大阪の老舗そば屋などで使われている。
適度に脂のある鯖だけが、1年をかけて鯖の本枯節となる。
しかし脂の多い鯖は、鯖スモークにし、頭と骨は機械で粉砕して上質な肥料にし、スモークで使った広葉樹の灰は、ふるいにかけて真っ白な木炭にして、火鉢などに使われる。
鯖を煮た煮汁は、10分の一以上煮詰めて不純物を濾過して水分を飛ばし、水飴状のエキスにする。
これは鯖煎汁というプロの調理の隠し味として活躍する。
「すべての資源を大切に生かすことを考えています」。
彼はこの鯖煎汁を使った「出汁醤油」を、最近開発した。
伝統とは明日を作ることなのである。
「海外からも大勢の方が工場見学に来ていただいて嬉しいです。説明のパンフレットも英語版と中国版を作りました」という彼が、今一番やりたいことは、
「ツアー会社に話しているんですが、盲目の方に分かってもらえるような工場見学をやりたいんです。我々は香りが自慢ですから」。