店名が「イチビキ」なのに

食べ歩き ,

店名が「イチビキ」なのに、二匹分である。
蒲焼きが、これでもか積み上げられている。
焦げがどうした、味が濃いのがどうした、表面はパリッとしてないが、それがどうしたと、有無をいわさぬお姿である。
これがうな丼よと、威風堂々、泰然自若となさっている。
食べれば、焼きっ放しの鰻は、むちむちとして脂の甘みを舌に落とす。
関東風の蒸し鰻にはない下手の迫力があって、その気取りのない味は、腹を空かしてこそ生きてくる。
丼を持って、脇目も振らず、掻き込むのが正しい。
しかし中々減らない。
一匹分を食べ終えたところで、ご飯の間にも蒲焼きが挟まれていることを発見した。
宝物を発見したようで嬉しいが、胃袋が心配している。
これでは鰻とご飯が、1対1の量ではないか。
さすが実質を重んじる名古屋人である。
ご飯の中から顔を出す鰻がいじらしい。
いじらしいので、もう少し寝ていてねと、ご飯をかけてあげた。
再びご飯より出てきた鰻を食べる。すると少し蒸されて柔らかい。
最後に優しさを見せるとこなんか、憎いねこんちくしょう。
特上丼3000円。次からはうな丼2000円でいいかもしれない。
名古屋の納屋橋「イチビキ」にて