山の精気が満ちていた。

食べ歩き ,

カネーデルリを突き崩し、一口飲んで、身震いがした。
山の精気が満ちていた。
ポルチーニの香りが弾けて、ブロードの滋味が広がっていく中、カネーデルリの素朴な甘みが溶けていく。
ここには誠実以外何もない。食べる人と郷土料理と食材を思いやる、誠実以外何もない。
「ああ、ああ」と充足のため息だけが漏れていく。
カネーデルリ。トレンティーノ-アルト・アディジェ州の郷土料理で、残り物のパンと小麦粉やチース、スペックなどを混ぜた、団子である。
パンと小麦粉以外入れるものは、身近にある季節のものでいい。そのまま焼いたり、スープに浮かべ、ソースをからめたりと、決まりもない。
「これはお好み焼きやと、最初に思いました」。北村シェフは言う。
ブリッコラ時代は、ハンバーグのように焼いて出していた。
「自分の好きなようにやらしてくれた、ブリッコラがあるからこそ、今があると思います」。
そりゃそうだ。新宿の真ん中という、食文化が決して高くない場所で、王道のイタリア料理メニューはあまりおかずに、その頃は珍しかった熟成肉や、カルネサラダなど他店にはない北イタリア郷土料理を出していたのだ。
70数席の料理を作りながら、さらに作りたいもののイメージを膨らまし、絞り込んだ料理を、今、24席のお客さんに出す。
集約され、一切の雑味や邪念がない、清々しいまでのメニュー。
今後神谷町「ダ・オルモ」のスペシャリテ「カネーデルリ」は、二か月に一回姿を変えていくという。