定点観測。

食べ歩き ,

「自分の技を定点観測するため、これからもずっと作り続けたいと思っています」。
そう佐藤幸大シェフは言われた。
「ニシンのテリーヌ」である。
彼は続けて言う。
「今の時期は、卵産んで一番痩せている時期なので、最も難しい。でも太っている時期だけでなく、こういう季節でも、悩んで悩んで完成させたい」。
ニシンはヨーロッパで広く食べられている魚であるから、西欧人にも馴染みが深い。
マリネという調理法が一番多いだろう。
だからこそ彼はニシンを選んだ。
ヨーロッパの食通を唸らせたいと言う野望もあるのだろう。
ご覧のように、テリーヌは耽美である。
楚々として余計な飾りもない。
目を閉じながら口に入れて、ゆっくり噛む。
次第に目が見開かれた。
脂はないが、だからこそ脂に邪魔されないニシン本来の滋味が、じわじわと迫ってくる。
前歯で噛みしめ奥歯で噛み締め、再び前歯で噛み締めると、そこはかとないうまみが顔をもたげてくる。
間に挟まれた植物が、ニシンの素朴さをそっと持ち上げる。
朴訥な味わいと言ってもいい。
若いシェフながら雄弁には知らずに、実直な味わいを構築していく勇気に心打たれた。
右から食べ始めて、左に移行して行くと、左端で刺激が増して、ニシンの味わいが少し膨らんだような気がした。
聞けば、そこだけワサビオイルを塗っているのだという。
料理名は「群来」という。
出身地である北海道では有名な言葉で、ニシンの大群が、海面上を埋めつくして真っ白になる様をいう。
若き才能あるシェフが持つ、地元への敬意が美しい。
ちなみにガルニは、菊のマリネ。
ん?  菊?
シャレかな?
ヴェイジャフロールとレストラン高津のコラボ会@ガストロノミー協会の模様は