サクッ。
衣を突き破った瞬間、歯はふんわりと包まれた。
羽毛の敷布団に横たわったかのように、歯が沈んでいく。
今まで様々なミンチカツを食べたが、この食感は初めてである。
口を動かせば、豚肉の甘いエキスがゆっくりと広がっていく。
「なんでこんな食感なのですか?」と聞けば、シェフが答えた。
「ミンチをかき混ぜるときに、絶対に回さないで、ボウルに掌を押し付けるようにしてまとめていくんです。かなりの重労働ですけどね」。
日本料理でも、うずらの丸を作るときには、同じようにして柔らかさを出すのだという。
空気を含ませるように、時間をかけてまとめていく。
やがてひき肉はその仕事に答えて、ふんわりとつながっていく。
いや自分たちが団結したのさえ、気がついてないかもしれない。
そうしで生まれる。
夢見るミンチカツが生まれるのである。
大阪「とんかつふじ井」にて。