「この料理があかんかったら、その前の伊勢海老もフグの白子もダメになるんや。だから一番難しい」。

風呂吹き大根の感動を伝えると、冗談ばかり言ってるご主人が、一瞬真面目な顔になった。

白味噌のあんがかけられた大根を、箸ですうっと切る。

ぽってりと重い大根の切れ端を、口に運ぶ。

歯をゆっくりと入れる。

すると優しい甘みが、口の中に流れ出す。

大根の甘みだけではない、出汁の旨みだけではないなにかが柔らかに口の中を転がっていく。

大根の滋味と完全に一体となったその味わいは、充足の吐息を生む。

ふわりと心を包んで、目を細くさせる。

聞けば、ある高級な干物を大量に使うのだという。

その甘さを締めるために塩を入れる。

「塩を少し入れるのが肝心なんや」。

そう言ってご主人は、また真面目に顔に戻った。

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