塩と水

食べ歩き ,

塩と水だけである。
塩と水だけなのに、どうしてこんなに美味しいのだろう。
その名もアクア・エ・サーレ、水と塩、トスカーナ南の郷土料理だという。
ブロードも入れてないのに、旨味と甘味を感じ、飲んだ瞬間に「ああっ」と言って崩れ落ちる。
塩と水以外に入っているのは、トマト、バジル、胡瓜、オリーブオイルだけである。
それなのに素っ気なくなく、澄んだうま味が舌の上をさらさらと流れていく。
おそらく、トマトときゅうりを入れて、塩加減の調整なのだろうが、実にさりげなく、ピタリと決まっている。
あるいは、フォカッチャと水とオイルだけのスープ、バンコットである。
フォカッチャをお湯に入れて崩し、オリーブオイルを注いだだけだという。
それなのに、ふくよかさがあり、どこか懐かしい気分にさせる温かみがあって、しみじみとうまい。
うま味の洪水の中にいる我々を、慈愛に満ちた笑顔でなだめ、癒す。
そんなスープである。
南草津「セジール」溝口シェフの変態ぶりが、縦横無人に発揮された、八種類のイタリア人でも知らない伝統スープコースの詳細は、タベアルキスト倶楽部にて。