噛んだ瞬間、海の花が舞った。
パリ。
微かな音を立てて海苔は弾け、歯を喜ばせながら、香ばしさを発散させる。
「うっ」。香りの高さに、思わず唸った。
香り。甘み。
圧倒的な海苔の存在感がある。
しかしそれは、二噛み、三噛みするうちに、引き潮のごとく消えていき、その後から中トロの品のある旨味が顔を出す。
海苔の余韻を楽しむかのように、中とろの色気が舌を舐めまわす。
「うっ」。また唸った。
なんという手巻きだろう。
「これは海苔が良くなきゃ、美味しくないんだよ」。
卒寿を越えられた職人が、毎朝炭火で炙る海苔を、嬉しそうに目を細めて褒める。
それは屈託の無い、笑顔だった。
90を過ぎられても尚、海苔を、食材を素直に愛し、敬意を祓う笑顔だった。
すきやばし次郎にて