今日はいいタコ入ってゆがいて酢味噌で食べたらおいしかったさ

食べ歩き ,

今日はいいタコ入ってゆがいて酢味噌で食べたらおいしかったさ。刺身の前に出すね」。
屋久島の居酒屋「ふるさと」を一人で切り盛りする女主人、松田早苗さんは元気がいい。
ちょっとしゃがれた声で、話好きで、よく笑う。
68歳。以前は板前さんを雇い、ご主人と営んでいた。
しかしご主人亡きあとは一人でやっているのだという。
壁にご主人の写真が飾ってあった。
「主人はスケベで、酒のみでねえ。風邪ひいたら鼻に栓して寝たら治るって、ほんとに治してたもんね。あの人。毎日酒消毒してたからね。でも死んじゃった。ハハハ」。
彼女には、子供が4人いるという。うち二人は先妻の子である。
「先妻の長男がいつまでも家にいたんだけど、やっと独り立ちしてね。よかった」。
トコブシ煮、南瓜煮、蛸酢味噌、赤バラと黄ホタ、カンパチの刺身、根深の酢味噌、キビナゴ刺し身、あさり酒蒸し、トビウオの刺身。
毎朝色々な朝市に行って仕入れて作るという、料理が並ぶ。
「今一番楽しいことはさ、朝八時に交通整理することさ。子供たちが登校するとね、アンタは誰の子だね、アンタは誰の子だねと話ししてさ、気持ちいいね」。
最後に汁が出た。
貝を茹でたスープに、甘い醤油で少し味付けがしてある。
それは南国の味がした。
緩いがしみじみとおいしい、南国の味がした。
それは、温かくおおらかでたくましい、おかあさんのような味だった。